次の花を育てる
約7万5千部売れた本の、その先の話
9年前、ウェブ制作の入門書を書いた。初学者向けの本で、改訂版も合わせると累計で約7万5千部売れた。
全員がウェブの道に進んだわけではないだろう。それでも、この本をきっかけに制作の世界に入った人は、相当な数いると思う。その人たちのことを、考えることがある。
当時のぼくは「ウェブ制作を学べば、自分の力で食べていける」と本気で信じていた。実際、そうだった。パソコンひとつで、場所を選ばず、自分のスキルで仕事を取れる。それはたしかに自由のひとつの形だった。
しかし今、その景色が変わりつつある。
AIがデザインを起こし、コードを書き、場合によっては一晩でサイトを構築する。クライアントが「AIでできるなら、外注しなくていいのでは?」と考え始めるのは自然なことだ。ウェブ制作のスキル自体が無価値になるとは思わない。ただ、「作れること」だけでは差別化にならない時代が、もうすぐそこまで来ている。
これは他人事ではない。ぼく自身の話だ。
ぼくはウェブ制作会社を12年経営してきた。ありがたいことに仕事は続いている。しかし、かつて咲いていた花が、この先も咲き続けるとは、もう思えない。
だから、次の花を育て始めた。
具体的にやっていることは3つある。
ひとつは、15年の現場経験をプロダクトに変える試み。ウェブディレクションの知識を、ツールという形に落とし込んでいる。AIとの協業で、6日間でプロトタイプができた。今も開発を続けている。
ふたつめは、収入の構造を変えること。受託の単発仕事に依存する形から、ストック型の収入を混ぜたハイブリッドに移行しつつある。まだ道半ばだ。
みっつめは、この実験そのものを記録し、発信すること。
正直に言えば、「成功しました」と言えることはまだ何もない。ウェブ制作の本業はありがたいことに続いているが、それすら先が見通せない。すべてが実験中で、すべてがもがいている最中だ。
それでも書くのは、黙っていることのほうが不誠実だと思うからだ。
あの本を読んで制作の世界に入った人たちの中には、今まさに「この先どうしよう」と考えている人がいるはずだ。その人たちに対して、先に同じ壁にぶつかった人間が何も言わないのは、責任の放棄だと思う。
ぼくが見つけたのは、正解ではなく、方角。
自分の職業知識を「受託」以外の形に変換する。つまり、技術や能力を「自分のために」使う。収入の柱を複数持つ。暮らしのコストを把握し、身軽でいる。
これらをまとめて、「自給自足 2.0」と名付けた。収入と暮らしを、自分の手で作る生き方。
明日、この実験の記録を一冊の本にして届ける。その話は、また明日。




